■ 今後、年金額は減っていくの?
公的年金は、以前、物価や賃金の上昇に応じて年金額が改定される制度でした。つまり、物価等が上昇してもそれと同じだけ年金額も増えたので、年金が頼りの老後も安心だったわけです。
しかし、平成16年より、「マクロ経済スライド制度」が導入され、物価等が上昇した場合、年金を支えている被保険者数の減少や平均寿命の延びを年金額に反映させることにより、年金額の改定率を抑えることになっています。結果、物価等が上昇しても、その分ほど年金額は増えなくなってしまうのです。
物価等の上昇率 − スライド調整率※ = 年金の改定率
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※ スライド調整率とは、公的年金の被保険者数の減少率と寿命の延び率から算出した調整率のことで、現状は0.9%となっています。公的年金の被保険者が減るほど、そして寿命が延びるほどスライド調整率は大きくなり、その分だけ物価等の上昇率から差し引かれてしまいます。簡単に言えば、少子高齢化が進めば進むほど、年金の改定率も抑えられてしまうということです。
ただし、スライド調整率を差し引いた結果がマイナスになってしまう場合には、年金額はマイナスにはならず、年金の改定率がゼロとなります。
【例@】 物価の上昇率が 1.5% の場合
1. 5% − 0.9% = 0.6%
⇒ 年金の改定率は 0.6% となる。
【例A】 物価の上昇率が 0.5% の場合
0.5% − 0.9% = −0.4% とはせずに、
⇒年金の改定率は 0% となる。
【例B】 物価の上昇率が −0.5% の場合
−0.5% − 0.9% = −1.4% とはせずに、
⇒ 年金の改定率は −0.5% となる。
上記でお分かりのとおり、物価等が下がらない限り、年金額が減ることはありません。
つまり、マクロ経済スライド制度が導入されても、見た目の年金額が減るわけではありません。しかし、年金の価値としては低下することになってしまいます。ここが、今後の老後生活を長期的に考えた場合の問題点なのです。
インフレが起こって物価が上昇しても年金額は同じようには増えません。ということは、年金生活者は生活レベルを下げていかざるを得ないということになります。
そうならないためには、自分自身で、物価上昇対策を立てておく必要があります。つまり、資産運用等の自助努力がますます重要となります。豊かな老後は1日にしてならず…できるだけ早めに老後の準備を始めましょう。
なお、公的年金制度については、少子高齢化はもちろんのこと、保険料の未納問題や国庫負担金引き上げの財源問題、さらに年金資産運用の損失や宙に浮いた年金記録問題など、多数問題を抱えています。今後はこれらの問題解決を行いつつ、抜本的な公的年金制度改革も必要だと思われます。
問題はあっても、私たち国民にとって老後の大きな支えである大切な年金制度です。自らの問題として、真剣に考えてみる時期が来ているのだと思います。